蒸し暑い天候が続く今日この頃。
カナダ・トロントでは、先日の山火事の影響による空気の澱みもだいぶ落ち着いてきた。
ここのところ円安基調が続いており、普段カナダドルで収入を得ている身としては、秋の日本帰国に向けて内心ほくそ笑んでいた。

ところが、2026 年 7 月 31 日、日米両政府が協調して為替市場に介入した*1。
介入前には 1 ドル= 163 円近くまで進んでいたドル円相場は、一時 157 円台まで急速に円高方向へ振れた。その後いったん円安方向へ戻したものの、翌週には 155 円台をつける場面もあり、為替市場に大きなインパクトを与えることとなった。
円買い介入そのものは、近年にも複数回行われている。今年に入ってからも、4月末から5月にかけて、財務省の公表額で 11 兆 7,349 億円*2にのぼる大規模な為替介入が実施された。
しかし、今回がそれまでと大きく異なるのは、日本政府単独ではなく、米国政府も円買いに加わる異例の協調介入となった点である。
なぜ米国は、自国通貨であるドルを相対的に押し下げてまで、今回の介入を実行することとなったのか。
そして、なぜこのタイミングだったのか。
いくつかの観点から、今回の日米協調介入に至った背景と両国の思惑、そして今後のドル円相場について考察してみたい。
米国政府介入の背景
そもそも、今回の円安はここ最近になって始まったものではない。

大局的にみれば、 2021 年ごろから円安基調が続いている。 2021 年初頭には 1 ドル= 105 円前後だったドル円相場は、 2022 年 10 月には一時 150 円台を突破。その後、円高方向へ戻る局面を挟みながらも、長期的には円安傾向が続き、 2026 年 7 月には一時 1 ドル= 164 円近くまで円安が進んだ。
では、なぜこのタイミングで、しかも日本単独ではなく米国を巻き込んだ協調介入が行われたのだろうか。
まず考えられるのが、日本政府による単独介入の限界である。
先にも述べたとおり、日本政府は今年4月末から5月にかけて、 11 兆 7,349 億円にのぼる大規模な為替介入を実施している。
介入によってドル円相場は一時的に円高方向へ振れたものの、その効果は長続きせず、その後再び円安が進行した。 7 月には一時 1 ドル= 164 円近くと、およそ 40 年ぶりの円安水準まで下落した。
つまり、 10 兆円を超える規模の介入を行っても、日米の金利差など円安を生み出している根本的な要因が変わらない限り、日本単独で為替の流れを反転させることには限界があったと考えられる。
その一方で、長期化する円安は、次第に日本だけの問題ではなくなっていた。
米財務長官 Scott Bessent は、円の動きが韓国ウォンをはじめとするアジア通貨に影響しており、中国も円安を意識することで人民元を大きく上昇させることに消極的になっているとの認識を示している。*3
つまり、極端な円安が続けば、韓国や中国をはじめとする周辺国も輸出競争力を維持するために自国通貨高を許容しづらくなる。その結果、円安がアジア全体の通貨安へと波及する可能性がある。
これは米国にとっても無関係ではない。
ドルに対してアジア通貨全体が安くなれば、相対的に米国製品は割高になる。関税政策などを通じて国内産業の競争力を高めようとしている米国にとって、過度な円安、そしてそれに追随するアジア通貨安は望ましい状況とは言い難い。
さらにもう一つ考えられるのが、米国債市場への影響である。
日本政府が円買い・ドル売り介入を行う場合、保有する外貨資産を取り崩して円を購入することになる。その外貨準備の重要な構成要素の一つが米国債である。
日本は現在も世界最大の米国債の外国保有国であり、 2026 年 5 月時点でその保有額は約 1.14 兆ドル*4にのぼる。
仮に円安がさらに進み、日本政府が大規模な介入を繰り返す必要に迫られれば、その資金を確保するために米国債を売却する可能性がある。
実際、今年春の円買い介入をめぐっても、日本政府は米国債市場への影響に配慮する姿勢を示していた。*5
世界最大の外国保有国である日本が大量の米国債を市場で売却すれば、米国債価格の下落、すなわち利回りの上昇を招く可能性がある。これは住宅ローンや企業融資などにも波及し、米国経済全体の借入コストを押し上げかねない。
もちろん、米国政府がこれを協調介入の理由として公式に説明したわけではない。
しかし、日本単独による介入の限界、円安のアジア通貨への波及、米国の貿易競争力、そして米国債市場への潜在的な影響、こうした複数の利害が重なったことで、「円安はもはや日本だけの問題ではない」と米国側が判断し、今回の異例の協調介入につながったと考えることができる。
今後
今回の日米両政府による協調介入によって、ドル円相場は一時的に大きく円高方向へ振れた。

また、日米両政府が必要に応じてさらなる対応を取る姿勢を示したことで、市場参加者に「再び介入が行われるかもしれない」という警戒感が生まれた。このこと自体が、今後の急激な円安を一定程度抑制する効果を持つ可能性はある。
一方で、長期的にみれば、為替介入そのものの効果は限定的との見方も根強い。
なぜなら、今回の介入によって、これまで円安を招いてきた根本的な要因が解消されたわけではないからだ。
その中でも特に重要なのが、日米の金利差である。
現在、日銀の政策金利は 1.0 %*6だが、 Reuters の報道によれば、追加利上げの可能性が高まっており、 年内にも 0.25 ポイントの利上げが行われるとの見方が出ている。実現すれば、政策金利は 1.25 %となる。*7
一方の米国では、中東情勢やインフレへの懸念から一時は Fed による追加利上げ観測が強まっていたものの、直近では雇用関連指標に弱さもみられ、追加利上げへの期待は後退している。*8
仮に今後、日銀が追加利上げに動く一方で、 Fed が政策金利を据え置く、あるいは将来的に金融緩和へと方向転換すれば、これまで円安の大きな要因となってきた日米の金利差は縮小する。
そうなれば、為替介入とは関係なく、ファンダメンタルズの面から円高方向への圧力が強まる可能性がある。
反対に、日本の利上げが進まず、米国でインフレが再加速して高金利が長期化すれば、日米の金利差は縮まらず、再び円安圧力が強まる可能性もある。
結局のところ、今回の協調介入だけで長期的な円安トレンドが終わったと判断するのはまだ早い。
むしろ今回の介入は、円安そのものを解決したというよりも、日米両政府が「過度で一方的な円安の進行には共同で対応する用意がある」というメッセージを市場に示したものと捉える方が適切である。
今後のドル円相場を考える上では、為替介入の有無だけではなく、日銀と Fed の金融政策、そしてその判断材料となる日米の CPI や米国雇用統計などの経済指標を引き続き注視していく必要がある。
参考文献
- 財務省, 「片山財務大臣談話(令和8年8月3日)」, 2026年8月3日(最終閲覧:2026年8月9日)
- 財務省, 「外国為替平衡操作の実施状況 (令和8年4月28日~令和8年5月27日)」, 2026年5月29日(最終閲覧:2026年8月9日)
- U.S. Department of the Treasury, 「Table 5: Major Foreign Holders of Treasury Securities」(最終閲覧:2026年8月9日)
- 日本銀行, 「当面の金融政策運営について [PDF 138KB] - 2026/07/31」, 2026年7月31日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「Bessent says he is sure BOJ chief Ueda will 'do what is best', NHK reports」, 2026年8月4日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「Japan ready to act on FX volatility, mindful of US bond market impact」, 2026年5月18日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「BOJ to raise rates again by December as weak yen revives inflation risks: Reuters poll」, 2026年7月23日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「Japan's yen surges after US jobs data, traders wary of intervention risk」, 2026年8月7日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「US will do 'whatever it takes' to support Japan after yen intervention, Bessent says」, 2026年8月4日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「US-Japan action undercuts G7's historic FX role」, 2026年8月6日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「The Week in Breakingviews: A yen for intervention」, 2026年8月8日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「Instant View: Investors react to BOJ's decision to hold rates」, 2026年7月31日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「US dollar to retain strength, yen intervention no game changer: Reuters poll」, 2026年8月5日(最終閲覧:2026年8月9日)
- Reuters, 「US suffers unexpected job losses in July, markets dial back rate hike expectations」, 2026年8月7日(最終閲覧:2026年8月9日)
- TradingView, 「U.S. Dollar / Japanese Yen (USDJPY)」(最終閲覧:2026年8月9日)
*2:外国為替平衡操作の実施状況 (令和8年4月28日~令和8年5月27日)
*3:Bessent says he is sure BOJ chief Ueda will 'do what is best', NHK reports
*4:Table 5: Major Foreign Holders of Treasury Securities
*5:Japan ready to act on FX volatility, mindful of US bond market impact
*6:当面の金融政策運営について [PDF 138KB] - 2026/07/31
*7:BOJ to raise rates again by December as weak yen revives inflation risks: Reuters poll
*8:US suffers unexpected job losses in July, markets dial back rate hike expectations






